危ない一時





 先生が連絡事項を伝え、挨拶を終えたと同時に沙紀が一目散に私のところにやってきた。

 「さぁ郁美、帰ろっか!」

 うっ…何このまぶしい沙紀の笑顔は!?本当にヤバイ。危険が危ない!

 「郁美?どうしたの?」

 怯んだ私に沙紀が心配そうな顔をして聞いてきた。

 「別に…大丈夫だよ」

 あぁ…今日でこの楽しい日々も終わったな。

 何か勘違いしてる人もいるかもしれないけど、沙紀は何か企んでいると、いつもこのような満面
  の笑みをしている。だから決してこの笑顔に惑わされてはいけない!

 「ねえ沙紀。やっぱ今日無理…」

 今日のところは断ろう。予定云々っていうより、身の安全の確保が最優先だ。
 
 「え!?どうして?」

 当然ながら沙紀が戸惑ってる。

 「だって数学教えられるほど頭良くないし、今日は気分的に良くないから」

 私は精一杯考えられる理由を言った。

 しかし沙紀ときたら…

 「は?別に数学なんてどうでもいいんだよ?ただテスト勉強を郁美と一緒にやりたいだけだし」
 
 沙紀はしれっとした顔で私にそう言った。

 ――って、はぁ?数学はどうでもいいだと?

 この状況を早く打破しないと!

 「それでも私、テスト勉強は家でやりたいし」

 「だけど、家でやったって解らない問題とか出てくるでしょ?だから効率よく勉強できるようにアタ
  シの家で勉強しよ?」

 ヤバイぞこれは。言えば言うほど危うくなってくる。

 こうなったら…

 「そういえば今日、お母さんが危篤状た――
  
 「郁美?そういえば今日お母さんが、郁美が好きなケーキ屋の新作ケーキ買ってくるって言ってたよ」

 「なにしてんの早く行くよ?」
 
 「………」


 *************************

 ――そして気づいたら沙紀の家の玄関に着いていた。

 相変わらず綺麗な玄関だ。沙紀の話しだと、沙紀の両親は綺麗好きで、掃除は欠かさずやって
  いるらしい。

 「郁美、取り敢えずアタシの部屋で待っててね」

 そう言って、沙紀は台所方面に向かった。

 ていうか早速放置ですか!

 別に寂しいとかじゃなくて、ただ他人が知らない人の家をウロウロするもんじゃないでしょ?
  家の人に出会ったらなんて言えばいいの?

 そう考えていると、早速沙紀の母親に遭遇。

 すいません!私怪しいものでは…
 と、言おうとしたら、

 「あら郁美ちゃんいらっしゃい。ゆっくりして行ってね」

 なんて事を笑顔で言われ、取り越し苦労をしてしまいました。

 本当沙紀に似て綺麗な人だな。髪は長くて綺麗で、そんでもって凛々しい顔立ち。でも、沙紀は
  少しだけ猫背だからな…。もう少し背筋をピンとしたら、結構格好良いと思うのに。

 そんな事を考えながら、私は沙紀の部屋に入った。沙紀の部屋は2階の、階段上がって直ぐのと
  ころにある。広さとしては一般家庭の中では広いだろうな。見た限り9畳はある。

 中に入ってみると、いつもながら綺麗に整理されていた。

 毎回思うけど、結構シンプルな部屋なんだよね。床はフローリングで、窓際にはベッドがあって、
  その横にローテーブルがあり、ノートパソコンが置いてある。壁際には背の高い本棚。ドアの隣
  にはテレビラックとテレビが設置されている。

 さて、物色はコレくらいにして早速沙紀対策でもしておこうか。

 しかし、沙紀対策といっても別にどうこうするわけではない。ていうか対策のしようがない。

 なにせ相手はあの超マイペースの沙紀だ。いつも予想外の行動を仕掛けてくる。

 そんなことを考えながら、ローテーブルの近くに置いてあったピンク色のクッションに座ると、
  程無くして沙紀が部屋にやってきた。両手にケーキと紅茶が淹れてあるティーカップを入れた
  お盆を持っていた。

 「お待たせ〜」

 本当に新作ケーキがあった。なかなかやるじゃない!

 しかし、そこで気を許してはいけない。常に気を張っておかないと、いざという時に太刀打ち
  出来ない。

 「じゃあとりあえずケーキ食べよ?約束通り新作のケーキ持ってきたから」

 沙紀はお盆をテーブルに置き、ニコニコしながら私の顔を見ていた。

 さて、ここからが本番! 






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